前回では、若年人口と生産年齢人口の減少が、インフラ、生産性、財政、若い世代の選択へ及ぼす影響を見ました。
条件が変わった以上、増加期につくられた仕組みをすべて同じ形で維持することはできません。最終回では、日本が何を残し、何を変えるかを、どのような基準で決めるべきかを考えます。
問われているのは、日本が再び昔と同じ大きさになれるかではない。小さくなる過程で、何を守り、何を変え、次の世代にどのような選択肢を残せるかである。
すべてを同じ形では残せない
人口が減る社会で最も難しいのは、技術ではなく意思決定です。
学校、病院、鉄道、道路、自治体、企業、社会保障。どれも利用者にとって重要で、働く人がおり、歴史があります。個別に見れば、存続を求める理由は正当です。
しかし、すべてを現在と同じ場所、同じ数、同じ仕組みで残すことはできません。
ここでも「悪意なき保身」が働きます。自分の地域、自分の組織、自分の給付、自分の雇用を守ろうとする。それぞれは合理的でも、全員が現在だけを守れば、将来世代が選べる余地がなくなります。
必要なのは、単純な削減ではなく、選択の基準です。
- 命と基本的人権に関わるサービスは何か
- 地域ごとに残すものと、広域化できるものは何か
- 対面でなければならない仕事は何か
- 過去の制度目的が、現在も有効か
- 既存利用者の利益と、将来世代の選択肢をどう衡量するか
- 撤退による不利益を、誰にどう補償するか
「無駄をなくす」という言葉だけでは、価値の衝突を隠してしまいます。何を残し、何を統合し、何を終えるかを、理由と負担を明示して決める必要があります。
成長率より、何を豊かさと呼ぶか
人口が減れば、国全体のGDPを永遠に増やすことは難しくなります。しかし、国全体の規模と、一人の生活の質は同じではありません。
一人あたりの所得、自由時間、住宅の質、医療へのアクセス、教育、文化、安全、選択の自由、将来への安心。これらを改善できれば、人口と総GDPが小さくなっても、個人の生活は豊かになり得ます。
反対に、総GDPや株価が上がっても、負担と不安が増え、時間と選択肢が減れば、豊かさを感じにくくなります。
これからの日本には、「大きくなること」と「よく生きられること」を区別する視点が必要です。
日本はどこへ向かうのか
未来は一つに決まっていません。しかし、出発条件はかなり明確です。
- 若年人口と生産年齢人口は減る
- 高齢者比率は上がる
- インフラと制度は増加期の規模を残している
- 政府債務が大きく、金利上昇への感応度が高まる
- 技術、生産性、移民、就業参加によって結果は変えられるが、人口構造を短期には反転できない
この条件のもとで、日本は「増やす国」へそのまま戻るのではなく、選び直す国にならざるを得ません。
選択に成功すれば、日本は人口が減っても、比較的安全で、知識と資本を持ち、一人あたりでは豊かな社会を維持できます。失敗すれば、すべてを少しずつ守ろうとして、重要なものまで一緒に弱らせるでしょう。
おわりに――増やす、守る、選ぶ
戦後の日本は、足りないものを増やすことで成長しました。
バブル崩壊後の日本は、失うものを小さくすることで安定を守りました。
これからの日本は、限られた人、資金、時間を何に配分するかを選ばなければなりません。
過去の世代が間違っていて、若い世代だけが正しいのではありません。それぞれの世代は、与えられた条件の中で合理的に行動してきました。しかし、過去には合理的だった制度を、その条件が消えた後も維持すれば、不合理な結果が生まれます。
日本は、増えていく国から、守る国を経て、選ぶ国へ向かっています。
その選択を先送りすることも、一つの選択です。ただし、その場合に選ばれるのは、最も重要なものではなく、声が大きく、既存制度の内側にあるものになりやすい。
全員が現在を守ろうとした結果、誰も将来を選べなくなる。その状態を避けられるかどうかが、これからの日本の分岐点になるのでしょう。
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