前回では、バブル崩壊後の日本が、急激な損失を避けながら既存の企業、雇用、金融、生活を守ろうとした過程を見ました。

しかし、日本を取り巻く条件は、安定を維持している間にも変わりました。第三回では、人口が増えることを前提につくられた制度と設備を、人口が減る社会でどう支えるのかを考えます。

人口減少の難しさは、単に人が少なくなることではない。増加期につくった社会を、どの規模へ合わせ直すかにある。

働く世代はすでに減っている

人口減少は、遠い未来の予測ではありません。

総務省統計局によれば、15歳から64歳の人口は1995年をピークに減少しています。女性や高齢者の就業増加によって労働力人口の減少は一時的に緩和できますが、参加率を高める政策だけで人口構造そのものが消えるわけではありません。

国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計の中位推計では、2020年に1億2615万人だった総人口は、2070年に約8700万人へ減少します。65歳以上の比率は約4割に近づきます。

出生率、死亡率、外国人の入国超過という前提によって結果は変わります。しかし、少なくとも今後数十年、若年人口と生産年齢人口が減る方向は、すでに生まれている人口からかなりの程度決まっています。

人口減少は「人が少なくなる」だけではない

人口が減れば、一人あたりの資源が増えて豊かになる、という見方があります。混雑、住宅不足、環境負荷が減る可能性は確かにあります。

しかし、社会の多くの仕組みは、一定数の利用者がいることを前提につくられています。

  • 道路、橋、上下水道の維持費
  • 学校、病院、公共交通の最低運営人数
  • 小売、物流、金融、介護の地域網
  • 年金、医療、介護を支える保険料と税
  • 企業や行政組織で専門職を配置するための人員

利用者が半分になっても、道路の長さや水道管が自動的に半分になるわけではありません。一人あたりの維持費は上がり、サービスの統合や撤退が必要になります。

人口減少の難しさは、総量が減ることより、増加期につくった制度と設備を、どの規模へ合わせ直すかにあります。

2000年前後生まれの人生――不足の時代の選択

2000年前後に生まれた世代は、物心がついた頃から低成長、少子高齢化、インターネットが当たり前でした。

就職時には、若年労働力の不足から売り手市場になりやすく、転職、副業、リモートワークなど、上の世代より多様な選択肢を持ちます。一方で、社会保険料、老朽インフラ、地域サービス、介護など、過去につくられた仕組みを少人数で支える負担にも直面します。

この世代は、終身雇用と持ち家を当然の前提にしないかもしれません。所有より利用、出世より時間、組織への所属より技能の持ち運びやすさを重視することもあります。

それは忍耐力の低下ではなく、長期雇用、賃金上昇、人口増加が保証されない環境への適応と見ることもできます。

生産性は魔法ではないが、避けて通れない

人口が減っても、一人あたりの生産性が上がれば、一人あたりの豊かさを維持・向上させることは可能です。

内閣府の中長期分析は、日本の潜在成長率が1980年代の4%台から低下し、2000年代以降は1%未満で推移してきたと整理しています。生産年齢人口が減るなか、経済構造の変化と生産性向上がなければ、成長率はさらに下がりやすくなります。

ただし、生産性向上を「少ない人数で、今まで以上に働くこと」と理解してはいけません。

  • 効果の小さい業務をやめる
  • 組織や地域を越えてシステムを共通化する
  • デジタル化で重複入力と確認を減らす
  • 人材が成長分野へ移りやすくする
  • 教育、研究、ソフトウェア、組織能力へ投資する
  • 医療、介護、行政の品質を保ちながら手順を再設計する

重要なのは、同じ作業を速くすることだけでなく、何をしないかを決めることです。

女性、高齢者、外国人の就業は重要ですが、特定の集団を「まだ使っていない労働力」とみなすべきではありません。参加を妨げる制度を改善し、本人が能力を発揮できる条件を整えることと、無制限に労働供給を増やせると想定することは別です。

金利のある世界と財政の制約

長い低金利の間、日本は大きな政府債務を抱えながらも、利払い費の急増を抑えることができました。金利が正常化すれば、既発債の借換えを通じて利払い費は徐々に増えます。

財務省の2026年度予算資料も、国債残高と金利上昇が将来の利払い費へ及ぼす影響を示しています。

これは、直ちに財政が破綻するという意味ではありません。日本政府は円建て国債を発行し、国内に大きな金融資産と課税基盤があります。しかし、高齢化に伴う社会保障、国防、災害対応、脱炭素、インフラ更新を同時に進めるなかで、金利上昇は予算の選択余地を狭めます。

増加期には、新しい需要へ予算を追加することで対立を和らげられました。減少期には、何かを増やすために、別の何かを減らす必要が生じます。

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